銀のレイヴン 4

 新しい突剣を鞘から引き抜き、ヒルトとタングがしっかり留まっているか具合を確かめる。ギノロットが初めて迷宮で頼りにする突剣だった。
 剣と違って、突剣は部品があって、剣身と柄の部分がばらばらなのだ。……いや、正確に言えば剣にもあった。だけれど、ギノロットはそこまで重要視していなかった。振って斬れればよいものだと思っていたから、工房に標準的なヒルトをつけてもらうだけしていた。
 突剣はもっと微細な操作をして真価を発揮する剣だった。軽さを頼みに派手に振り抜き、手首や指先でしならせて太刀筋を操り拍子をねじ曲げ、目をくらまして惑わせる。やり方が分かれば、ソードマンしか使っていない意味も分かった。剣技に集中できる者でないと、使う余裕がないのだ。
 そしてそういう操作を確実にやろうとしたら、どうしても使いよいヒルトを探したくなる。だからギノロットは剣よりもずっと突剣の面倒をみて、手によく馴染むヒルトを見つけて、自分でしっかりと取りつけた。
 当然、斬り叩く剣ではない。鋭くもしなやかに空を切る突剣は、ややもすると刀よりも頼りなかった。だが、刀のような冷酷に柔らかく斬り捨てていく感覚でなく、剣のように遮二無二断ち潰そうとするのでもなく、聞くだけ聞いては強情に突っぱねて押し通す、ヒステリックな――このごろ覚えた言葉。発作みたいな怒りの、という。はは、分かる分かる。その救いようのない感じ――使い心地がした。
 見た目は頼りないくせに、しっかりと剣の機能をしている。叩いて殴ることは苦手でも、手元次第で裂き、貫き、えぐり、必要とあらば斬り捨てる。持ち主の操作でいくらでも剣としての姿を変える。それがかえって奇妙な親しみを持てる感じがした――この剣は慣れるまでが面倒くさいが、俺の話を聞くは聞く。
 それなのにきっとこの剣は、冒険のどこかで曲がったり折れたりして失われるだろう。今までだって何本もの剣を使い潰したから、この剣も必ずそうなる。ならばせめて、いつか何かを思い出せるような使い方をできたらよかった。できるかどうかは別として……。
 彼は剣を鞘に納め、エリゼの顔を見た。エリゼは了解と首肯する。
「ニョッタ先生いかがっすか、ようござんすか?」
「ようございます!」
 おかしな呼びかけにきちんと返事をしたニョッタが両手をぐっと胸で握る。軽装でなくローブを着込んだ彼女は、本人の持つ空気も相まって、ギノロットからするとクラゲみたいに見えた。だが衣裳に下げられた石飾りは魔力をはらんで、強い光を湛えている。元素に接触するための迷宮にのみ許された石は、ワイヨールの静かな石とは印象が違ったし、ギノロットが鎧の隅につけてもらったものともまた違った。
「ウチ先生もよございますよぉう」
「モモもモモも。よーございます」
 一見だらしないだけのハンナのマントだが、その影に隠れた一瞬でえげつない手を繰り出すことはもう全員が承知しているし、口真似しているモモにしても、ハンナと二人でさらに戦場をえげつなくしていくのだろう。ギノロットは苦笑した。
 エリゼはよっしゃ、と手に拳を打ちつけ、右手の聖なる小手がきらめいた。
「行こうかモモちゃん。だらしなおじさんに挨拶して出発だ!」
 少し邪魔で重たい寒冷地用装備を背負って、一同は気球艇から踏み出した。喜び勇んで走っていこうとするモモを諌めつつ。
「はやく! おじさんとこ、はやく!」
 モモがぴょこすか騒いでいると、『おじさん』の方からこちらにやって来てくれた。砲剣を負った黒い鎧のおじさんは、地図こそないが今日も親切だ。
「やあ、来たな本隊。レイヴンは予定通り出発しているよ」
 飛び跳ねるモモと握手しながら、ローゲルは言う。顔はモモに微笑みかけているが、彼の台詞はしっかりと仕事をしていた。
 時間差で進入する『銀のレイヴン』の中に「どーせ石門の前で、相も変わらずダンナ張ってんだろ? むつかしー顔してたってヒマなんだろ?」と思い込みを言う者があって、ローゲルは今朝現場で突然伝言役を押しつけられたはずである。ちゃっかり利用する銀のレイヴンだったが、当のローゲルは嫌な顔ひとつしていなかった。冒険者だから、という一見ぼんやりしている、しかし確かな理由がそこにある。
「うまくいきそうかい?」
「勿論です。バシッとやりますとも」
「期待してるぜ」
「任しておいて。ついでに例のクエストのことも、無事を祈っていてくださいよ」
 ニンマリ笑うエリゼである。どこかしらブレロのようでもあり、しかし女性らしい華やかさがあった。不敵なブレロとはやや違う形で、場を明るくできるフォートレスだった。
 西の通路へ至るまではわざとなのだろう、点々と魔物の死骸が転がっており、路面は血の足跡が入り乱れ、死臭と血風の漂う場所になっていた。殺されるのを恐れてか、道は何者もなりを潜めている。マルデル率いる先遣隊が魔物を薙ぎ払っていったのだ。銀のレイヴン本隊が難なく認証を発見できるように。今回の目的は素材収集でも探索でもない。ただ認証発見、その一点である。
「派手にやってるなあ。容赦なしだなあ」
「ウチもそっち行きたかったな」
「えー、やーん。こわい。それに、おちそう。たかいよう」
「怖いわね、モモ。ハンナは今日も物騒ね」
 雑談しながら平然と死骸の間を通り抜けていく女性たちを、ギノロットは空恐ろしく思いつつも努めて気にしないことにした。モモでさえ、足元の高さのほうを不安がっている。女性は肝が座っていた。
 レイヴンは経験の豊富な冒険者を少しでも多く欲しがっていた。迷宮と魔物相手の冒険稼業は、一人勝ちではうまくいかない。互いに情報を共有し、共闘しあってこそ長く続けていられる、という。つまりレイヴンは、レイヴンに比肩するギルドを欲しがっているのだ。
 銀の稲穂団はレイヴンに比べれば当然小さな、弱小とさえ言っていいギルドだが、それなのに四つの迷宮を踏破し、あまつさえ敵対していたローゲルを引き込み、揺籃の守護者を打破した運のよさを――彼らはあくまでも『運がいい』とだけ評した。歴戦のレイヴンに言われては返す言葉もないが――オーズが買った。運はただでは成立しないというのが、銀の稲穂団にはまだ分からぬベテラン勢の主張である。
 そして「洞窟凍ってねーと先進めねーのよ、誰か頼むわ」と言う者があって、もう一組の別動隊が五人、金剛獣ノ岩窟に乗り込んで、ついでとばかりにホムラミズチを討伐しに行っている。結果、総勢十五人の関わる派手なお祭り騒ぎと化してしまい、互助会リーダー・オーズもさぞかし楽しいことだろう。
 迷宮西の通路は青く輝く水のような光を放ち、木偶ノ文庫へ通じている。その不思議な力に満ちた通路を抜け、一同はまだ知らぬ場所へ踏み入れた。
 遥かに高い天井までの書架と、そこへ絡む藤の枝葉と花を見上げ、そして足元に戻れば、煌天破ノ都と同じく転がされた魔物たちの死骸がある。象牙色に似た石畳は血の足跡で踏み散らされ、そして奥へと進んでいた。図らずもそれが道標となる。
 また木偶ノ文庫に来ると思わなかったギノロットは、自分の中にさほどの動揺もないことが不思議だった。だから始めの扉を開いてすぐに魔物に出くわしても、自分で奇妙に感じるくらい落ち着いていた。ひっかきモグラの群れがキイキイ言っていたが、厄介な爪にモモが封じの蔦を食らわしてくれるのを信じて静かに剣を抜く。以前あった神経の焼き切れそうな焦燥感はどこへ行ったのだろう……ギノロットは走り出す。
 しかしモグラの爪がハンナの剥き出しの腹を薙ごうとするのを目の当たりにし、咄嗟に盾を突き出してギノロットはそちらへ飛んだ。寸でのところで爪を弾いて盾が耳障りな音を出し、軽いモグラは白い床をもんどり打って転がっていく。
「うひょう! びっくりするじゃん」
 たたらを踏んだハンナが素っ頓狂な声を出す。ギノロットを横目で見つつ、チチチと指を振った。ギノロットは思わずまばたきを繰り返した。かばったはずが責められている。
「だいじょぶ、超だいじょーぶ。ギノさん、ウチ全然イケるから。ちょい見ててみ。グッと行ってズブッといくから。セイ、ワンモアー」
 かけらも緊張感を感じさせない調子で、ハンナは平気で敵陣に突っ込んでいく。ギノロットはエリゼをちらりと見た。彼女は強くうなずいて、声を張り上げる。それはまるきり声援だった。
「やっちゃって、ハンナ!」
 途端に夜賊の横薙ぎ一刀が決まり、そして逆さまにもう一刀が払われた。モグラとハンナはみるみる血まみれになり、彼女は黒のクロークを舞い上げながら素早く身を翻し、中ほどに進み出ていたエリゼの近くへ帰還する。こなれたヒットアンドアウェイ――自分以外に刃を振るう味方の戦いを見るのは、初めてかもしれないとギノロットは思った。どんなに訓練したところで、実戦を見なくては分からないものだ。彼は盾をぐっと握り締める。俺は孤独に戦わなくてもいい!
 モモの方陣が地面に展開されてゆく。群れの中の何体かが鋭利な爪を蔦で絡め取られて、
「ギノちん、やっちゃって!」
 背中にモモの声がぶつかり、ギノロットは手近な獲物を探した。封じられた爪を何とかしようと蔦に噛みつく隙だらけの一匹があり、赤い毛色の中で目を思わせる黄の獣毛に、思うさま剣を突き立てて手首を捻り込んだ。そして引き抜く途端に鮮血が噴き上がり肉片が飛び、己の行いにうっかり尻込みした。俺も大概物騒じゃないか!
 ニョッタの印術が皮膚に痛いほど元素を凍らせ、やがて形成された氷槍がモグラを撃ち抜いた。体を持っていかれた一匹が後ろの何匹かを巻き込み倒れて、そこをとどめとばかりにエリゼの戦鎚が叩き潰し、彼女は返り血を浴びた。起き上がる生き残りは死に物狂いで飛びかかってくる。爪に蔦が絡まろうとお構いなしだ。
 突剣がギノロットの一歩を軽く運んだ。ブレードは宙を滑らかに抜けて、モグラの爪を払い除ける。先に左、そして右! モグラの体を跳ね上げ斬り下ろして叩きつけた。ハンナの捕まえた残りの一匹は背中から貫かれて、絶命していた。
 戦場はすぐに静かになり、あたりは血と肉片と死体と冒険者だけになる。
「ハァ。ウチらもマジで容赦ないし」
「相手の腰が引けてる気がするね」
 愉快そうなハンナに、血を拭いながらエリゼが言う。マルデルたちが手ひどく荒らしたせいなのは容易に分かった。
「ウチら集団殺人強盗みたい」
「やめろ、行く気失せる」
 まさにそんな雰囲気を感じ取り、ギノロットは顔をしかめたが、自称面の皮が厚いハンナは平気である。
「ドロボーするほどのモン、きっとないよ。盗るモンは姐さんが盗っちゃった後じゃん」
 すでにレイヴンの得た紫色の『王の認証』のことである。レイヴンの見立てによれば、第二の認証はこの先にあるのだ。この木偶ノ文庫を抜けると、そこは金剛獣ノ岩窟へと通じているという。
「私たちは着実に行こうね。姐さんたちのほうがどうかしてるほど強いんだから。ね」
 血糊を払って息と装備を整えて、一同は再び歩き出した。図書と藤の絡む書架と、魔物たちの死骸が累々と転がる廊下を進めば、やがて二つ目の扉に行き当たった。ニョッタが先日の打ち合わせを思い出して地図を開けば『機械人形 注意!』と赤い字が記してある。
 先遣隊が可能な限り潰していく予定ではいるが、石人形たちは目に見えぬ連携を取っているようで、どれほど跡形なく破壊しても一日経てばまた新たに現れる。ニョッタは続いて背嚢から図鑑を引っ張り出した。
「白いほうは頑丈な人形って言ってたわね。聖印で弱点を作りなさいって」
 魔物の図鑑に記した赤白二種の石人形の特徴は、ルーンマスター・フォルセティが調べ上げたものをそのまま引き書きしてある。これも先日の大会議室での成果だった。
「――開けるぞ」
 ギノロットが静かにノブをひねり、扉をそっと引く。エリゼが首を出して様子をうかがう……巡回するほうの人形はさほどに足が早くない。しばらくの間を観察したが、
「すご〜く静かだよ。いないみたい」
「行くか?」
「行けるね。行こう」
「待って。もし白い人形がいたら、聖印は氷にするから。赤い獣人形が混じったら火の聖印。いい?」
「あー俺、氷の聖印刻めない」
「分かったわ。なら物理担当になって」
「悪ィ。ハンナも物理担当?」
「うぃー。ギノさんの影からイロイロヤラシイことするよ」
 警戒しながらエリゼがドアの向こうに挑むと、第三のドアは目前にあり、そこをくぐれば赤い人形が待ち構えているという。打ち合わせ通りならマルデル班が人形を破壊しているはずだが、どんなことでも決めたとおりにはならないのが迷宮だ。ギノロットが三のドアを引き、エリゼがまたこっそりと覗く。うぉう、と彼女は声を上げて姿勢を改めた。
「赤、ガラクタになってる! ……今のうちに行こう」
 扉を開け放ち、一同は足早に四枚目のドアへと走り出した。赤い獅子のような姿をした人形と、両腕に鎖鎌を下げた白い人形とが、ギノロットには分からない何かの部品をばら撒いて横たわっている。それらを尻目に、身軽なハンナが最後のドアノブに取り縋って開けた。続いてギノロットが、モモが、ニョッタが。
 と――あたりにけたたましく警報が響き渡る! 振り向いた左側から白い人形が顔を覗かせて、走り去ろうとするエリゼの背中を見つめていた。
「後ろにいる。早く!」
 ニョッタとモモを扉の向こうに押し込めて、ギノロットは叫んだ。しかし装備の重たいエリゼは速さが出ない――舌打ちしたギノロットは盾を取って抜剣した。
 躍り出たギノロットの額に、人形が狙いを定める赤い光を放つ。ああ、その光にかつて、何度後ろが集中砲火を浴びただろう。だが俺なら構わない、俺は耐えられる!
「行けエリゼ、進め!」
 ギノロットは剣の柄を握りしめ、己の生気をひとかけ差し出した。細い悲鳴が剣に貼りつき氷の魔力を帯びてゆき、エリゼとギノロットはすれ違う。その一瞬に目が合い、彼女の茶の瞳を確認した――平気だギノロット、エリゼはあいつじゃない、あいつは海の色なんだ――怯えを何とか振り払ってギノロットは人形の左の鎖鎌に斬りつける。手首ほどもある氷柱が鎖を飲みながら形成されていき、鎌の刃は凍結し、動きが鈍くなった。寸暇を得たギノロットは背中越しに叫び問う。
「エリゼ!?」
「……っとおぉちゃっくなあーう!」
「ハァ!? 分かる言葉で言えっバカタレ!」
 あのクソエリゼ! 何言ってんのか分からねえよ!
「もどってきて、ギノ!」
 分かる言葉のモモが叫ぶと足元に方陣が輝いた。人形の足を絡めようと蔦がうねくったが、人形は不細工な短い足でもがいて束縛から逃れようとする。そして空気が背後へさらわれては正面へ流れ、冷たい風が人形の周囲を駆け巡る。ニョッタの聖印だった。
 身を翻しながらモモの蔦が人形を絡めるのに失敗するのを見た。ギノロットは盾を背中に流し、剣も抜き身で走り出す。扉から仲間がこちらを見守っている。
「いーから見てんな、そこどけ!」
 怒鳴りつけた仲間が散ったと思いきや、
「カモンナウ、ボーイ!」
 急にエリゼが飛び出した。予想外の行動にたじろぐギノロットだが、彼女の構えた盾の光が目に入った瞬間、すべてが理解できた。ギノロットは再び神聖なるエリゼとすれ違い、剣を納めて身を低く飛んだ。空に浮いた足元で金属同士がまともにかち合う硬い音が響いたとき、ギノロットの両手が地面に届いて体が横ざまに転がった。立ち上がると隣のハンナが流れる動作で小刀を投げ、砕氷音が耳朶を打つ。人形に残したリンクフリーズが発動したのだった。
「走れギノくん! 左!」
 音高く扉が閉められエリゼの声が部屋に響いた。ハンナがギノロットの手首を掴んで駆け出し、エリゼもこちらへ走り始めている。ギノロットは一足先に青の道に着いたモモとニョッタと合流し、そしてようやく、エリゼが辿り着く。
「到着ぅ、ナウ」
「……普通に言われたら分かるわ」
 しかし『なうー』は依然として分からない。強調の意味合いなのが雰囲気で解釈できるにすぎない。ギノロットはうんざりと渋面を作った。
「はは、普通に聞こえなかったか。そりゃゴメン」
「でも助かった、ありがと」
「へへ。少し遅かったら大変だったね」
 エリゼはにっと微笑み、扉の様子をちらと見た。扉の向こうから何者かが現れる気配はない。二人はほっと胸を撫で下ろす。
 どういう理屈か知れないが、魔物たちは扉や階段や迷宮そのものを破壊してまで追っては来ない、おかしな習性があった。それはここでもやはり同じらしい。ワイヨールに尋ねたら、何か持論が聞けるだろうか――。
「どうかしたの、ギノ?」
 ニョッタの澄んだ声が耳に触れ、ギノロットは首を振った。それを考えている暇はない。
「いや、命拾いしたなと思った。行こう」
 その一言で、一同は再び歩き出した。

 青く輝ける道は、その壁面を幾何学的な模様で飾っている。煌天破ノ都も、木偶ノ文庫も、いずれも同じような模様をしているのが不思議だった。同じ時代の同じ文化の持ち主による意匠だということが分かる。
 目指す認証は、冒険者には馴染み深い『掌の紋章』の姿をしているという。風馳ノ草原の『谷』の石碑に始まり、丹紅ノ石林と銀嵐ノ霊峰にもあった紋章である。
 レイヴンのフォルセティは、これまで潜り抜けてきた迷宮が、かの紋章によって象徴されるものだと推測していた。木偶ノ文庫の奥で見つかった紫色の紋章が憶測の根拠だ。フォルセティが正しければ、金剛獣ノ岩窟のどこかにも、青い右手の紋章がある。
 輝ける道は次第に雰囲気に変化が出てきた。木偶ノ文庫の乾燥して靴音が響く感覚とは異なってきたように思われた。ニョッタが小柄なりに鼻を高くする。
「凍える空気の匂いがする。……気がしない?」
「およ。凍った匂いのわかる人? わかんないや私」
「ウチも分かんない」
「モモも」
 ギノロットなど答えるまでもないので、何も言わなかった。ニョッタが残念そうな顔で、それでも何とか理解してもらおうとして、身振り手振りを織り交ぜる。
「なんていうか、湿っぽいような、この、冷たい、北風みたいなのが南から来てない? ……あら、南から北風って変ね」
「あー湿っぽいは俺分かる。ここはちょっと湿っぽい」
「やった、しっとり同盟」
「なんだそれ。聞こえる音が詰まってきてる。狭い感じ」
「ごめんなさい……その音がわからないわ。ここが一本道だから、とは違うの?」
「同盟即決裂ぅ」
「レリッシュだったらわかったかしら。あの子、耳が鋭いものね」
 ひたすらに進むとやがて遠く光が見え、それとともに底冷えする寒さが足元から襲った。邪魔にしていた防寒着の出番である。
「ホムラミズチって、」
 ぎゅうぎゅう言わせながら上着を着込みつつ、エリゼがぼやく。
「おっきいウロコを壊しちゃうと、ビックリして動けなくなっちゃうっていう、かわいげのある魔物だよね? やっつけることあったのかな?」
「こーこのうれいをたつ、ってマルデル言ってたけど。分かんねーけど殴りたいだけじゃねーの」
「第二陣が作れるようにしとこうって意味よ」
「はーん、そーゆーアレ。ちゃんとしてたのか」
「着いてミズチちゃん死んでなかったら、どーすんのお?」
「考えたくないね?」
「ならしっとりセンサーどーお? 凍ってきた?」
「分かんねー。でも超寒みーからいけんだろ。鼻水出てきた」
「私も寒い。凍えそう。ミズチちゃん、もう、素材だと思う」
「ウチらのセンサー、イマイチくね?」
 果たして岩窟は凍結していて、しかし誰も嬉しくはなかった。何しろ寒さが士気を低下させていくので、次第次第に無口になる。その上ここから地図は白紙だ。自力で進まなくてはならない。
「地図担当、お願いします」
「あいあい、さー」
 エリゼの普通の呼びかけにおかしな返事をするニョッタである。それで平然としているハンナの横顔を見て、二班はそういうものなのかもしれないとギノロットは考えを改め、何となくモモの頭を撫でて安心を得た。
 一同は寒さに震えつつ、凍結した地面に惑わされつつ進んだ。そこかしこにはすでに凍りかけの魔物の死骸が転がされているが、思ったよりかは数が少ないのが気になった。ハンナが革手袋の指を開いたり閉じたりしながら、首をひねる。
「さっきまであんなにスプラッタだったのにね?」
 先の二つに比べれば、よそのギルドの後をたまたま追いかけているような感覚になってくる。それくらいの死骸しかない。
「さすがに息切れしたかなあ」
「ねーだろ。殴るのが生き甲斐みたいなのが二人いんだぞ」
 オーズとマルデルである。二人の戦闘意欲が並大抵でないことは、ギノロットが酒場の与太でよく知っている。
「って、残り三人が息切れするかもしんねーのか。向こうも地図白紙だもんな」
「どーいう組み合わせー?」
「えっと……フォトメディ、ソドモフ、ダンソド、メディルン、ルンスナ。です」
 暗号のようでも昨今の冒険者なら理解できるメモをニョッタが読み上げた。地図の隅につけておいた先遣隊のパーティ構成であった。
「やっぱ後ろ三人切れそう感?」
「プロボウケンシャーがそんな簡単に?」
「なら、椀飯振舞じゃなくて通常営業に戻ったのかな」
「あっ。もうさー、じゃさー、どんな死体か見たらよくない? ウチ見る」
 言うが早いがスタコラ死骸の下へ行ってしまう物騒担当女子である。確かに調べてみれば、一番活きのいいのが誰なのかは分かりそうではある……が、物理担当の男子のほうは躊躇した。死体漁りなんかお断りだった。
「あー、モモ検分だ。検分します。ギノちんみはりね!」
「うい」
 優しいサブメディック・モモがすぐに役目をくれたので、ギノロットは魔物の死肉をわざわざ見ずに済んだ。エリゼと二人で周囲を警戒し、柔軟な樹脂の手袋姿のモモが早々に職能を発揮した。
「はっけん。や」
「や? 矢? アロー?」
「うん、あろー。おれて……じゃなくて、きれてる」
 鉗子でつまみあげた先に血で汚れた矢先があった。ということはフォルセティは無事だ。切れたというのは、マルデルの駄目押しの一刀だろうか。
「どれどれ見して。あ、マジだ。……あっちは潰してあったよ。マッシュドブレインな感じ」
「どこー?」
「あっこんトコいる青いモグラ」
「……わー! かちわりだー。かちわりこおりもぐらだー」
 着々と二人が死体の傷を調べていき、少なくともその場においては切創、裂創、割創、その他諸々……とにかく刀と鎚と弓矢が機能していることが分かった。だが不思議なことに、印術の形跡はない。どの死体も焼けてはいなかった。
 言われて地図と魔物図鑑の下書きをしていたルーンマスター・ニョッタが立ち上がる。きょろきょろとあたりを見回して、よりにもよって頭蓋を割られたコールドネイル――とニョッタが名をつけた、ひっかきモグラの色違いみたいな魔物――に向かって踏み出した。ギノロットは思わずおいおいと言ってしまったが、
「変よね。こんな寒いところで」
 そんなことも関係なく、ニョッタは丸い玉飾りのついた帽子を揺らした。
「こんなあからさまに青い、氷に属した生き物に、氷の印術の気配がするの。氷槍の痕の気がするわ。ねえギノ、どうかしら。どう思う?」
「ハァ? 印術で俺を頼んなよ」
 指さされたコールドネイルの死骸を渋々と目に入れる。誰の戦鎚か知らないが、それはそれは見事に脳天を割った理想的な一撃によって死んでおり、血と脳漿の悪臭が鼻を突いた。
「氷槍? こいつに?」
「ここ。この矢傷のようなもの。印の匂いがする。しない?」
 そして案の定、ギノロットにはニョッタの言う痕がどこなのか分からない。しゃがんで目を凝らしてみたが、検討もつかない。どころか、印術に匂いを感じたことがない。
「なーモモ、これ矢傷じゃねーの?」
「みる。ん、とー……」
 モモがその傷を調べようとしたとき、岩窟中に甲高い雄叫びが響いた。挑むような呪うような、おどろな女の怒号が長く尾を引きながら、いびつな鍾乳洞を震わせて木霊した。驚いたモモがひゃっと手を止めて、ギノロットも反射的に剣を握りかけたが、それよりも予感のようなものが彼を貫いた
「――マルデル?」
「えっ?」
「咆哮……『咆哮』だ。モノノフの。なんでだ? 何に?」
 独り言のようなギノロットの言葉を的確に拾い上げたニョッタは遠くをじっと見つめ、それから慌ただしく地図を広げた。以前ワイヨールによって清書された部分と、今ニョッタによって下書きされている部分とでくっきりと分かれている。ニョッタが目を走らせたのは、清書された部分。それから懐の方位磁針を取り出して確認する。と思うと魔物図鑑を素早く繰った。開かれたホムラミズチの頁にはワイヨールが戦闘時の様子を手短に記しており、彼女の指はそれらを追って、あるところでピタリと止まった。
「もしかして、まだだった? だから氷槍を使えた? 生きてるんだわ」
「たんまたんま、ニョッタ何? 説明して」
 分からぬエリゼが手を挙げると、ニョッタは右手のロッドで狙いを定め、その唇からささやかれたガルドゥルがコールドネイルの爪に火を放つ。熱される金属質な爪が僅かな範囲を温め、やがてコールドネイルの毛皮に達したとき、その毛色は冷めた青から鮮やかな赤へと変色し始めたではないか。
「きっと。想像よ? ――マルデルたちがここに来たとき、ウロコは壊れてなかったの。だからこの魔物はコールドネイルではなかったのよ。本当はひっかきモグラ。この洞窟はついさっき凍ったばかり。そして今マルデルは、ホムラミズチを倒そうとしてるんだわ」
「嘘でしょ。まさか、討伐隊失敗?」
「――助けなきゃダメだ」
 発作的に走り出そうとしたギノロットを、しかしエリゼがその手首を掴んだ。
「待ってギノくん! それはダメ。行ったら何人がかりになるかわかってる? こんな狭い洞窟で」
 ギノロットが振り向いたエリゼは梃子でも動かない顔をして首を振った。ギノロットはぐっと黙り込む。
「私たち、認証を見つけに来たんだよ。あっちは大丈夫、きっと行っても邪魔になるくらい強いから。私たち、本隊なんだよ? 作戦を台なしにしちゃ恨まれる。信じて任せよう。ね?」
 エリゼの静かな諭し声を、ギノロットは必死で反芻した。あちらは十年の玄人、こちらは運が頼みの若輩。本隊と言えば聞こえはいいが、それは目標が王の認証であるからそう呼ぶだけだ。真の実力を持つのは切り込む力のある先遣隊なのだ。
 それに、とギノロットは目を閉じる。マルデルは自分とは違う。彼女はあの破壊衝動を操るのだ。殺戮を尽くそうとしたあまり自分さえ殺しかけた俺とは違う。背後にはいつでもオーズが控えていて、いつでもそこへ帰っていける――。
 ギノロットは重たく息をついて、そして吸い込んだ。凍れる洞窟の空気が肺一杯に満たされて、彼は自分の焦燥を踏み潰した。
「……分かった」
 エリゼがうんと頷いて、彼らは再び探索を開始した。
 一同は用心深く進んだ。縄張りを巡回する鋭い棘つきの甲羅のカメに気づかれないよう身を潜め、認証の在り処を探し続ける。ニョッタが凍える指をこすりつつ、鉛筆で地図に何かの印をつけていくのを、ギノロットは耳に聞きながら歩いた。ときどきモモの青い瞳と目が合うので、「大丈夫」と微笑んだ。大丈夫という言葉を、モモが思い出させてくれた。
 つるつる滑る凍った地面に焦れったくなりながら歩いていると、恐らくはよい獲物だと思われたろう、曲がり角から三匹のコールドネイルと、ヒョウガジュウのやたらに立派な頭のやつがゾロゾロ現れて――エリゼが場違いに嬉しそうな声を上げた。
「うそぉ! カッコいいヒョウガジュウいる! スーパーヒョウガジュウだ!」
「エリゼの好きなイケメンじゃーん」
「冷たいイケメンじゃなっ――キャッ痛い!」
「うわっウチ掴むのやめてよぉ!」
「バカタレ、揃いも揃って何してんだ! こんなときにコケてんじゃねーよ!」
「いたた……だってブラックアイスバーンよ!」
「ベラベラ言い訳すんなっ、レリでも迷宮じゃコケねーよ、遠足じゃねーぞ!」
 人間がゴチャゴチャ喚いている隙に、魔物は素早く襲いかかってくる。たちまち懐に入られてギノロットはコールドネイルの爪に太腿をえぐられ、背後では髪を切り裂かれたモモが悲鳴を上げた。超ヒョウガジュウの吐き出す凍える霧が吹き荒れて、全員が固い冷気に巻かれた。ニョッタの氷の聖印を期待したが、彼女は氷の粒が目に入ってしまい、その場に座り込んで動けない。エリゼも氷に足元を取られて、盾を構えることもままならない有り様だ。
 ギノロットは剣を振った。地面が滑ってステップを踏めず、とてもではないが突くなんてできずにただ払った。コールドネイルの姿勢を崩すことに成功し、そこへ盾を振り下ろして爪を砕いた。金属めいた光沢の爪は飛び散って音を立てて武具に当たる。涙目のニョッタがようやく立ち上がった。
「下がって……爆炎で焼き払う!」
「走れないよ、ムリぃ!」
 エリゼの泣き言に同意だったギノロットはニョッタの要求を無視して斬り込んだ。生気の一欠を唸る炎に変えて超ヒョウガジュウの角に叩きつけ、だが反動を打ち消しきれずに足先が滑る。上体までもバランスを崩して何とか左手をつくが、ギノロットの剥き出しの指は氷で激しく擦り剥いた。決定打を与えきれぬその間にも超ヒョウガジュウは大きく上体を反らし――きっとまた吹雪を噴かれる! クソ! 這いつくばったギノロットは毒づく。効かなくても俺を恨むなよ!
『冬帝の玄く極まる、我が方へ南へ流れ――』
 咄嗟に口をつく故郷の言葉に左手で空に逆さの『光/ウンジョー』、『自己/マンナズ』、『防御/エイワズ』、逆さの『自己/マンナズ』、逆さの『保護/アルジズ』、ちくしょう、なんてまだるっこしい! 
『天后やさか、彼の方へは西へと至れ!』
 失意に反してルーンが光り、元素がわっと悲鳴を上げて空気が震え、息が白く染まるのが止まった。皮膚に切れそうな冷気が緩む。噴き出される霧を間近に食らったが、盾を構えてやり過ごす。粘膜が冷えて睫毛に水滴がつき、身震いが起きて、くしゃみが出る。……が、かろうじてそれだけだった。ギノロットはきょとんとなり、同じく不思議そうな(というように見えただけで、本当はどうなのだか知らないが、とにかくそういう)顔をしている超ヒョウガジュウと、目が合う。傍から非難がましいニョッタの声が上がる。
「ギノの嘘つき! 聖印できてるじゃない!」
「まぐれ当たりだ、次知らねーよ!」
 完全自己流自己解釈の、突発的なルーン・ガルドゥルは驚くことに元素に通じた! すぐに誰かに感じられるほどに。一言一句すべてが異国の神話頼みで、よくも元素を操作できたものだ。ギノロットにも分からないが、しかし首をひねる暇もなく方陣が開いて蔦が超ヒョウガジュウの口を塞ぎ、そして額に開いた第三の目に投刃が決まる。投刃の毒は直ちに回り、超ヒョウガジュウはよろめきだした――戦場は何とか人間有利になりはじめるが、足元の不利は変わらない。
 ニョッタの火球の印術が閃き、コールドネイルの群れの真ん中へ落下して、被毛を焼かれた青モグラたちは右往左往する。モモがお返しとばかりに手から黒い霧を噴き出して、ヒョウガジュウに絡んだ蔦がますます食い込み、エリゼの戦鎚が『イケた』横っ面を激しく打ちのめした。ヒョウガジュウは耐えかねたように口から核を吐き出して、ゆっくりと動かなくなって溶け出した。
 コールドネイルの中にもすでに動くものはなく、あるいは、逃げ出していった。
「くっそ……お前ら、もちっと緊張感持てよ! エリゼてめー、なんでアレがイケメンに見えんだよ。変だろーが。いー加減にしろ」
「ごめんー。私どうしてもああいうの好きで」
「そこの足元だってただの地面に見えたのよ! 悪かったってば」
 自らも転んで擦り剥いた手を太腿で拭い、ギノロットは剣を納めた。モモが手足の傷を診ようとするが、放っておくことにした。寒さで血行が悪化して出血も大したことはない、と言ったら、ニョッタがぽんと手を打った。
「それよ。指の血だわ」
「血?」
 下ろしかけた指を開いてみて、ギノロットはぞくりとした。首元で首飾りが少し重さを増した。
「きっと聖印の言葉は血で通じたのね。でも気をつけて、それは最も悪い、忌まわしいことよ。何があっても血でルーンを刻んではだめ……それは呪いよ、どんな努力も諦めさせる呪い。ソードマンなら仕方のないことかもしれないけど。けど決して頼ってはだめよ」
 言葉を増やしても減らしても使えなかった氷の聖印が使えたのが、ギノロットにもやっと納得がいった。魂が氷の聖印を刻ませたのだ。本来以上のものを求めてあの禍々しい血の代償へ行き着いてしまうのならば、明らかにそれは呪詛だ――首飾りと、元素に触れる石飾りが、初めて薄気味悪く感じられて、ギノロットは眉を潜めた。モモに頼んで傷は塞いでもらい、街に戻ったら指全体を覆うグローブを探すことに決めた。
 やがて狭く細い道をぐるぐると歩き回り、またもや例の恐ろしげなカメをそっと避け、期せずしてギノロットがデモンドレイクで日々の寝不足を解消し、エリゼが謝りながらイケメンを殴り潰していくと、果たして通路のどん詰まりにはあの紋章が――水色の大きな輝石には、掌のような印が刻まれていた。これこそが第二の『王の紋章』だった。
「……だよな?」
「だと思う。ギノくん調べて」
「え、俺が? 普通ニョッタとかじゃねーの」
「何よもう。誰が見ても同じだわ」
 ニョッタがすいと進み出て紋章に屈み込み、平然と石の玉座に触れる。首を右に左に傾けて、帽子につけた丸い房が同じように揺れて、振り向くとギノロットに微笑みかける。
「やっぱり何かの気配がする。フォルセティの言ったとおり、輝石に触ると動く仕掛けなんだわ。私がやる? それとも、あなたやる?」
 試されている笑いだ。そう思ったギノロットはごく単純に対抗心を抱いた。一歩踏み出すと首飾りが鎧に触れて、カツンと硬質な音を立てた。
 玉座の前まで歩み寄り、その大きさに見上げた。半球の石がこちらを向いて鎮座する玉座は、ギノロットの身長を優に越えていたし、横幅も同じほどにあった。ブレロでもエドワルドでも同じ高さではないかもしれない。見据えれば、磨き上げられて傷さえもない輝石の中に、自分の姿がまるまる写って収まっている。まるで鏡だと思った瞬間、己の虚ろを思い出して息を呑んだ。
 だが、救いの手が差し出されるわけはない。そこには自分しかいない。
 冷え切って凍えた手で、青い紋章に触れた。するとそれが思いの外温かい、ということにギノロットが気づいた瞬間――紋章は強く輝き始め、ある者は視界を奪われ、ある者はかざした手で目を守った。何事が起きたのか理解できたものはなかった。光の中で機械仕掛けの何かが硬い高低の音を織り交ぜながら動き出し、やがて光に目が慣れてきたころ、仕掛けはぴたりと動くのをやめた。光も失われた。
 ギノロットはただきょとんとして、後ろの仲間たちを振り向いた。触れた紋章からはすでに温もりが抜け始めている。岩窟の冷気に熱を奪われているようだ。そっと手を離したギノロットは、ニョッタを見つめた。
「……終わった? 認証、もらえたっぽい?」
「きっとね。お疲れさま」
 ギノロットは一歩引いてもう一度掌の紋章を見た。青い大きな石でできた紋章は、ただつややかに光るばかりである。
 これ以上ここにいても何も起きそうにないと判断した一同は、そこを立ち去ることにした。