その手紙には(ブレロ)

 ブレロの手には一通の手紙が握られている。それは金箔の散りばめられた気品漂う便箋で、癖のある特徴的な文字でたった一言、「幸せをありがとう」と綴られていた。誰から来た手紙なのかは知れない。封筒には「銀の稲穂団へ」と記されているきりだ。今朝がた冒険者ギルドの玄関口に差し込まれていたと、ギルド長が不思議そうに手渡してくれた。朝な夕なと誰かしらが出入りする冒険者ギルドで、誰にも気づかれず手紙を置いていくとは珍しいことだ。
 もちろんただの偶然かもしれない。そのとき人が切れただけだったのかもしれないし、あるいは人目を引かない風体だったのかもしれない。
 ブレロのそこそこ長くなってきた冒険者活動は、誰の幸せを作って、誰の不幸になったこともある。自分自身にも大いに跳ね返ってきた日々は、どれも漏らさず日記に書き記していた。だからその気にさえなれば、手紙の主が誰なのかわかりそうな気はする。少なくとも男の書いた文字という雰囲気だった。
 けれども、幸せをありがとう——このたった一言からにじみ出ている幸福がどれほどのものか、推し量れぬわけがあろうか。野暮な詮索など無用だ。すでに冒険者の出る幕ではない。
 ひとつ口惜しいとすれば、どういたしましてと微笑み返せぬことだけだ——ブレロは手紙を貸し会議室の机の隅にそっと置いた。後に誰かが来たらすぐ読ませてやりたかった。自分だけの成果ではなかったから。

その手紙には https://shindanmaker.com/567679
ブレロの手には一通の手紙が握られている。それは金箔の散りばめられた気品漂う便箋で、癖のある特徴的な文字でたった一言、「幸せをありがとう」と綴られていた。