Get ready, 3, 2, 1...

「——敵襲! セリス!」
 エドガーの張った声が私の耳を打つ。反射的に右手は柄を握り、振り向きざまそれを切りつけ——浅い! 確かにモンスターに一撃を加えたが、致命傷には程遠い。わずかに裂いただけと見えて、鮮血は花びらのように宙に舞うだけ。半端に手負いにしてしまった——バックステップで間合いを稼ぎ、マッシュが間に入る。後悔している暇はない。
「何ぼさっとしてんだ! 死にたいのか!」
 ロックがすかさず叱り飛ばすが、無論応じる暇もない。見回せばどうにも数が多く、魔法を使う他ないことは残りの三人も察知しているらしい。詠唱の隙を撃たれないようにと、彼らは私を背後に囲んでいる。彼らとはそう場数を踏んでいないはずだが、経験的にか、どうすれば最も効率的に片付けられるのかをよく把握していた。私の魔法は一撃必殺としてすでに認知されている。
 私に背中を向けたまま、エドガーは言った。
「私のボウガンも矢が残り少ない」
 オートボウガンの矢はアルミニウム製だった。威力も耐久性も十分あるが、何せ敵が固い、おまけに徒党を組む。必然的に矢は傷んだ。
「そろそろ君の力が頼りのころだ。よろしく任せる」
「分かっている。少し持ちこたえてくれ」
 魔法の詠唱を始めるとどうしても無防備になる。敵の的になるのは分かっているが、状況を打開するにはこれしかない。
「ロック、慌てるな。セリスが集中できない!」
 そう、ロックがこの状況に一番焦りを感じている。端から見ればそうは見えないかもしれないが、私たちを取り巻く戦いの雰囲気は確かにそれを伝えている。彼は稀に、ふとしたことで恐慌状態に陥ることがあった。あの悲鳴に近い叱咤に怯えが混じっていることを、二人も気づいているだろう。
「大丈夫、負けないさ。三人まとめて俺が助けてみせるって」
 最後にマッシュが頼れる一言で皆を勇気づける。マッシュの低い声、広い背中、たくましい両腕の筋肉。何よりもポジティブな心根が、いつも確実に士気を高めてくれる。もし戦場に置いても有能な男だろう。
 私は覚悟して目を閉じた。何も見ない、聞こえない環境が、もっとも私を鋭敏にさせる——ロックのどこか不安げな瞳を、私は意識の端から追い出した。
 私は戦う。そして勝つ。それが私の存在意義。常勝と呼ばれる比類なき力を持つ私の価値だ。