シュークリーム

 思わずあーあ、という声を上げたら、バルトがすぐにうるせえなと言い返す。口元はクリームまみれで、ひどい有り様だ。マルーを睨みつけてくる隻眼はちっとも怖くなんか、ない。怖いと思ったこともほとんどないけれど。
「爺がクリーム詰めすぎなんだよ」
「そうやっていっつも人のせいにするんだから」
「俺さまの食うシュークリームは破裂しないシュークリームじゃなきゃ不合格だ!」
 面白い顔のまま横柄なことを言うので、マルーはひとしきりくすくす笑ってから、ようやく紅茶を口に含んだ。たっぷりホイップの入ったシュークリームを焼いてくれたのも、少しだけ苦い紅茶を入れてくれたのも、どちらもメイソンなのに、バルトは偉そうな態度を隠そうともしないし、カウンターの向こうで銀器を磨くメイソンも、嫌な顔ひとつしない。それどころか、満足そうに微笑んでいる。
 血の臭いも硝煙の臭いも関係なくなるこの時が、マルーにとって幸せの瞬間だった。
 早く、こんな日が毎日続くようになったらいいのにな――マルーはこっそりと願っている。
「……おい。シュー、破けてるぞ」
「へっ!? どこっ?」
「左手ンとこ。あーあ、それほとんど全部なんじゃねぇの?」
 メイソンが胸元のハンカチーフを引き抜くよりも早く、手の上に落ちたクリームをパクリとやると、バルトは喉で笑った。
「大教母さまときたらみっともねーなぁ」
「う、うるさいー! もう、すぐ人の上げ足取って……あーん、クリームが空っぽになっちゃった。シューがぺたんこだよ」
「マルー様の御手を汚すようでは、爺のシュークリームはまだまだですな」
「そんなことないよ、すごくおいしいもん」
「おう、味は満点だ」
「味だけじゃないよ! 気持ちだって嬉しいよ。ありがとう、爺」
 メイソンはあくまでも慎み深い顔のまま黙礼する――きっと破れるように作ってあるのだ、こうして楽しく食べられるように。戦いの日々なんて忘れられるように。

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シュークリーム食べるの下手くそバルトとマルー
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