砂上に紅月は二度昇る 03

マルーへ

 この手紙が届く頃には、即位式は一ヶ月後だな。城の中もすっかり浮き足立ってて、当事者の俺としてはうんざりしてる。どんな召し物が似合うかだの、髪はどんな風に結うかだの、そんなことばっかりだ。そんなことより仕事の方がよっぽど大事だってのに、シグや爺ですら言うんだよな。諸人の前に出るのですから、その一点張りだ。気持ちは分からんでもないがな……

 ああ、いきなり愚痴っぽくなってすまない。いきなり慌しくなってきたもんだから、なんだかな……仕方ないって分かっちゃいるが、どうにも。こういうの、苦手なんだ。
 本当はあんまり手紙として書くことはないんだ。お前に手紙を出した三ヶ月前と、あまり事態は好転してない。仕方なかったとはいえ、スレイブジェネレータがなくなっちまったのは痛手だな……。
 だから、俺としちゃこのお祭騒ぎにはほとほと参ってるんだが、どいつもこいつも口裏合わせたみたいに「今はそんなこと忘れろ」って言うんだよな。王になるなら尚更、忘れられるかっての。そう思わないか? 皆が俺に期待してるんだ。手抜かりはならねぇだろ?

 ああ、結局愚痴になっちまった。実は何回も手紙を書いては直ししたんだが、いくら書いても内容が似たり寄ったりになっちまう。ずっと城の中に閉じ篭りっきりだから、話題も少ないんだよな。参ったよ。

 手紙も出していいのか、悪いのか、迷ってる。どうせ出したところで届くのは一ヶ月後だ。そんなに経ったら手紙なんか出さなくたって、ちょっと待ってりゃ直にお前と話せる……まあ、書いちまったもんは仕方ないし、出すよ。少し急いでくれって頼んでおく。清書のわりには字が汚ねぇとか怒るんじゃねえぞ。間に合わないと格好悪くてしょうがないだろ。

 そうだ。この間(つっても、お前の手紙が届いたのとほとんど同時だが)先生が来て、フェイ達に俺の即位式のことを伝えてくれるって言った。フェイはなんやらいろいろあって、忙しいらしい。なんで忙しいかなんつーのは、先生も人が悪いのは相変わらず変わってないようで教えちゃくれなかった。妙にニヤニヤしてたから、きっととんでもない理由で忙しいに違いないんだが、一体フェイにどんな忙しい理由があるってんだ? いや、別にフェイを馬鹿にしてるんじゃない。想像がつかないんだよな。一つだけ心当たりがあるとしたら……いや、まさかな。
 だからソフィア(今から思い出せばなんだが、ソフィアとエリィはよく似てるよな)の絵のことも、そのときにフェイに聞いてみればいいと思う。実際はどう返事するかなんて俺にも分からない。ゲージュツはむつかしいらしいからな。

 最近砂嵐が酷くて、月はいつも赤い。シグ曰く月が赤いのは、大気の塵が光の波長の赤色部分だけを通すかららしい。爺は気味悪がるんだが、俺はやっぱり赤い月は好きだ。ガキの時分からずっと眺めてきたもんだが、不思議と気味が悪いなんて思ったことは一度もない。夜寝る前に月が赤いと、何だかほっとするんだよな。変わってるのかなあ。

 まあいいや。この手紙はとっとと出しちまうよ。間に合うといいんだが。

バルトロメイ