砂上に紅月は二度昇る 01

マルーへ

 まともに手紙なんか書くのは初めてだから、どうしたらいいのかよく分かんないんだけどな。シグや爺が書け書けってうるさいし……ともかく元気か? うちのやつらは爺が少し風邪ひいたくらいのもんで、一人も欠けずに元気そのものだ。あれからもうすぐ三年になるけど、一度も顔突き合わせてないから、少しは心配でな。
 城の連中の誰か彼かがニサンに行って来たらお前やシスターたちの話をするけど、うまくやってるみたいだな。一番酷い壊れ方したのはニサンだから、みんな気にしてたんだ。聖堂も再建が進んでるって聞いた。天使像はさすがにまだ難しいって話だが、まあそのうち何とかなるんだろう?
 こっちも順調だ。もっとも、かつてのアヴェ……むしろブレイダブリクひとつ取っても、なかなか難しいもんだ。人も金も資源もないから仕方がない。仕方がないけれど、貧しい暮らしほど辛いものもないよな。
 先に水路の確保をすることにしたんだ。地下水が溢れっ放しで、川みたいになっちまった。まさか汚い水なんて飲みたくないだろ? ましてや流行病だって猛威を振るってる。子供や老人や弱い人間たちが真っ先に死んでいくんだから……とにかく急いでやれって事になって、三年で何とか収まったよ。自然と城の基礎部分もできたし、一石二鳥だな。

 文明が壊れるってこういうことなんだな。家が壊れただけじゃないんだ、生活の基盤そのものを断ち割られるってことなんだ。
 それでもみんな、俺のことを王だって思ってくれてる。——ああ、王国化することが決まったんだ。今まで城を借りて臨時政府を立ててたけど、とうとうそういうことに決まっちまった。そうじゃなきゃ身動きが取りづらい部分がどうしても出てくるんだ。親父の遺言、とうとう最後まで果たせなさそうだな。
 ニサンから来たシスターたちも頑張ってくれてる。昼は暑いし夜は寒いし、生活環境も悪いのによく国民を助けてくれる。土地が荒れてろくな食材もないのに、魔法みたいに美味い飯を作ってるって評判だ。城のやつらがたまの視察で邪魔しても、嫌な顔一つしないで迎えてくれる。ついでにシスターたちが城下の生活の面倒を見てくれるようになってから、少しずつだが犯罪の発生率も減ってきてる。ブレイダブリクの市民はニサンのシスターに癒されてるみたいだ。感謝してるよ。ありがとうな。
 そういえばフェイとエリィはどうしてる。アヴェにはいないらしいと聞いてるが、何か知ってたら教えてほしい。
 ともかく、そんな感じだ。暇があったら城に遊びに来るといい。今まで知らなかったけど、俺の部屋から見える月が意外と綺麗なんだ。赤い月ってのもなかなか面白くていい。これがアヴェなりの風流ってもんなんだと思う。
 それじゃ、元気で。

バルトロメイ